シンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」要旨 パネルディスカッション
- 投稿者 :
- tanko 2015-8-26 17:30
写真=(左から)多田住田町長、戸羽陸前高田市長、戸田大船渡市長、高橋金ケ崎町長、小沢奥州市長、鈴木県立大学長、増田日本創世会議座長、吉岡岩手大・東北大客員教授
シンポジウム第2部では、胆江・気仙5市町の首長と有識者によるパネルディスカッション「わがまちの未来絵図とILC」が行われた。
【パネリスト】
戸田公明(大船渡市長)、戸羽太(陸前高田市長)、多田欣一(住田町長)、高橋由一(金ケ崎町長)、小沢昌記(奥州市長)、増田寛也(日本創生会議座長)、鈴木厚人(県立大学長)
司会・進行 吉岡正和(岩手大・東北大客員教授)
吉岡教授
まずは、各自治体の現状や抱えている課題などを話してもらいたい。
戸田大船渡市長
震災前は年間240人ぐらいの人口流出があったが、今は復興事業ということで流出は止まっている。経済も非常に元気だ。
しかし、復興事業もあと数年で終わってしまう。再び人口流出が始まるが、これをストップさせるのはしんどい。ILCは地域発展のため非常に大きなパワーを秘めている。地域の将来像を一緒になって考えていきたい。
戸羽陸前高田市長
復興計画の中では、無駄な造成区画をつくれない。津波で建物を多く失ったため空き家もない。一方で県からは「ILCで訪れる研究者のための居住スペースはあるか」と聞かれる。何か、ちぐはぐな印象を受ける。
陸前高田市としては(ILCの誘致で)交流人口を増やし、にぎわいをつくることができるかもしれない。海外の方をどう迎えられるか考えていきたい。
多田住田町長
全国の町村は、人口だけでなく、産業や教育、医療、福祉、交通も負のスパイラルに陥っている。歯止めもかからない。
今まで触れたことがない科学と言う分野によって、課題解決のきっかけが生まれればと期待を込めている。住田の90%は山林。林業資源をぜひ価値あるものにしたいと願っている。ILC関係者の住まいにはぜひ町産木材を利用してほしい。
高橋金ケ崎町長
農業は米価下落で大変な状況。担い手の高齢化も進んでいる。工業団地は重要な雇用の場ではあるが、生産の安定維持という課題を常に抱えている。
ILCは産業や地域の生活を変える大きな要素となる。地域経済や産業振興、コミュニケーションの課題に新たに取り組まなければいけないだろう。総合的な対策をしないと人口減の歯止めや地域活性化には結びつかない。
小沢奥州市長
多文化共生とは、互いの文化を認め合うこと。ILCを迎えるには、さまざまな文化を受け入れる準備をしないといけない。同時に、この地が世界に自慢できるものを見つめ直すきっかけにもなる。
奥州、一関、気仙沼だけで物事は成り立たない。岩手、宮城、東北、オールジャパンという立場で、それぞれの価値観を高める意識づくりをしていかなければいけない。
吉岡教授
5人の首長の発言に対し、鈴木さんや増田さんにコメントをお願いしたい。
鈴木学長
基調講演で「なぜ今、地方創生か」という話をしたが、もう一つ「なぜ子どもが少ないのか」を考えたとき、やはり「不安だ」ということがある。
私が東北大学にいた10数年前に、キャンパス内に学内保育所を作った。初めて子育てに臨む人への施策も大事だが、今子育て中の人が2人目、3人目の子を産めるような環境をつくらないといけない。今できることの中から、安心して子育てができる環境を構築しないといけない。
増田座長
人口減問題は、全体で若い夫婦の出産が少なくなっていることが本質。「結婚したい」「子どもは2人以上」と願う若者は決して少なくないが、子ども数が減っている。「所得が少ないから子どもの数を控える」ということが絶対にないよう、できる限りの支援を国が講じていくのは当たり前のことだ。必ずしも経済的理由だけでもないが、若い人の不安を取り除くために、知恵を出さないといけない。
地域でせっかく育てた子どもが、進学を機によそに行ってしまう問題もある。だがILCが実現できれば、こうした課題のほとんどは解決できる。それくらい影響が大きいプロジェクトだ。
吉岡教授
ILCの説明がまだまだ不足しているという課題もあるが、ILCをどう地域に生かしていけるか、再び5首長に答えてもらいたい。
戸田大船渡市長
市内の産業が大きな刺激を受け、レベルアップしていくと思う。輸入資材の受け入れ基地としても本市は頑張れる。積極的に参加していきたい。
外国人を含む研究者の方々が訪れることで、国際化マインドがアップされるし、小中高生の教育は大きな刺激をうけるだろう。関連施設見学で、最先端の科学技術の成果を見て感動するだろう。研究施設で活躍する地元出身者が出てくるかもしれない。考えるほど夢が膨らんでくる。
戸羽陸前高田市長
震災を機に、全世界から多くの外国人が支援のために陸前高田を訪れ、子どもたちとも交流した。ILCが岩手に来れば、そういう機会がさらに増え、文化交流に興味を持ってくれるだろう。
地域の良さを大事にしながら、世界のスタンダードを取り入れていく。若い人たちが「こんな田舎は嫌だよ」と嘆くのではなく、「自分の故郷にはいいものがあるし、グローバルの新しさもある」という状態がまちの存続にも役立つ。
多田住田町長
1次、2次産業が主体の地域にアカデミックな研究都市ができることは、大きな地域振興の起爆剤になる。地域の歴史の中でそうあることではない。岩手は80%が山林。この資源を生かす方法をやらないといけない。地域全体でILCを生かした地域づくりが必要になる。
英語教育も当町は力を入れている。言葉が通じ合えば、ホスピタリティーにもつながる。これからの子どもたちは、自由に英語を話せるよう育てたい。
高橋金ケ崎町長
多面的な検討をしなくてはいけない。異文化と交流できる受け入れ態勢の構築も一つ。英語もそうだし、風習や文化の違いを理解し、互いに共生できる都市形成が求められる。田舎文化を大事にしながら共生できる道をつくらないといけない。
子どもたちに夢を与えることも大切。科学教育が日常生活や学校の中でも進むと思う。
奥州、一関、気仙沼だけでなく、周辺地域みんなで議論し「ILCと共に」という熱意と決意が必要だ。
小沢奥州市長
岩手県や日本だけでは絶対にできないチャンスを与えられた。
現在、当市はILCをオプションと位置付けたまちづくりを考えている。奥州らしさを一番大切にし、「ILCが来たらこのような発展ができる」という計画にしたい。
ILCさえ来れば、勝手に何かいいことが起きるというわけではない。ILCを大きなばねとし、どのような挑戦ができるか考える時だ。皆さんの力を借り、岩手や東北に光が当たればと思う。
増田座長
本日は、いろいろな考えが示された。ILC実現には、いくつか大きなハードルを乗り越えないといけないが、着実に来ることを前提に、どうしたら心地よい研究環境が築けるか議論してほしい。
ILCは多様な成果をもたらすが、中でも岩手の財産になるのは「若い人たちが残る」という点。勉学意欲をかき立てる励みになり、良い人材が育つ。国内他地域の地方創生にはあり得ない規模のことを、この地域ではできる。隠し玉のようなものだ。
鈴木学長
北上山地の周辺を見ると、山と海、川があり、おいしい魚や農産物、そして温泉、お酒もある。こんなに多くの魅力が一つの地域にそろっている場所は、世界にはない。
産業や雇用といった1次波及効果だけでなく、この地域が世界中の人たちが集まる保養地にもなり得るという「2次波及効果」を考えてもいい。
吉岡教授
客席の皆さんのご質問は。
男性聴講者1
一般市民が今できることは何かあるか。
小沢奥州市長
ILCが目指す学問について、少しでいいので理解する作業をしてみてはどうか。いよいよ決定し施設建設が始まれば、さまざまな市民レベルの活動が動きだすと思う。
鈴木学長
今の質問に関連するが「ILCご意見箱」を作ってみるのはどうか。やはり、いろんな疑問がある。われわれは一つ一つ答えていかないといけない。
男性聴講者2
ILCを知らない人が多い。認知度を上げるためには、他分野との連携が必要だ。
吉岡教授
岩手、宮城と候補地地元3市、東北大学で、まちづくりの作業を進めている。作業に携わっている関係者はこのような声を地道に吸い上げてほしい。
男性聴講者3
ILCの建設候補地に北上山地が選ばれた理由を再認識したほうがいい。北上山地は、日本で一番安定した岩盤。ILCにとどまらず、半導体や精密機械工場の誘致も進めてはどうか。
増田座長
岩手は非常に地盤が良い。全体で努力すれば地方創生にも役立つだろう。
〈この連載は児玉直人が担当しました〉
※新聞紙上では、8/26〜8/28の3回に分けて掲載しましたが、ネット上では一本化して掲載します。