人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】国際研究拠点と地域社会(2)“歯車”かみ合うように〜周辺自治体

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tanko 2015-7-24 11:00
 各自治体がこれまで築いてきた地域の姿、そして将来構想の中に国際リニアコライダー(ILC)の存在をどう位置付けるか。市町村境、県境を越えた人の動き、波及効果などを見据えながら、さまざまな立場の“歯車”がしっかりかみ合った状態を築く必要がある。そのためにも、自治体間で共通認識を持てる環境づくりが欠かせない。
 県はILCを「大震災からの復興の象徴」と位置付けている。では、実際に沿岸被災地を含む周辺自治体の首長はILCをどう捉えているのか。
 25日に水沢区で開かれるシンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」には胆江、気仙5市町の首長らが登壇する。開催に先立ち、5首長にアンケートや直接取材でILC計画に対する考えを尋ねた。

 「子どもたちを含め、地域の方々に国際的な感覚も養成できる」と陸前高田市の戸羽太市長。長い目で見れば被災地復興にもつながるプロジェクトだと考えている。
 大船渡市の戸田公明市長は、大船渡港が資材の輸送基地として活用されることや、外国人関係者の来訪による市内経済への好影響などに期待を寄せる。
 とはいえ、両市ともILCに関連した目立った取り組みを展開しているわけではない。
 戸羽陸前高田市長は、津波被害からの復興に集中していることもあり、時間を割く余裕がないとその理由を挙げる。戸田大船渡市長も、震災復興を最優先に市政運営をしている立場。ILCに対する市民や議会の理解を現段階で得られるかどうかという懸念要素もあるなど、被災自治体ゆえの現実が垣間見られる。

 「森林・林業日本一のまちづくり」を掲げる住田町。独自に推進している英語教育も強みだ。多田欣一町長は「人口流出の低下や町内経済の活発化が図られるのでは」とILCに期待を込める。
 気仙3市町の中でILC候補地に近接する住田町。だが、陸前高田や大船渡同様、踏み込んだ行動は起こしていない。多田町長は「国が正式決定していない。組織にも人的余裕がないため、内陸との取り組みに温度差を感じる」という。
 自治体トップが責任を持って事に取り組むには、国の正式決定のような確かな“根拠”がほしい。
 多田住田町長と似たような思いを抱くのは、金ケ崎町の高橋由一町長。住田町と同様に候補地が近く、住民の日常生活を見ても、奥州市など周辺自治体との往来が活発だ。
 高橋町長は周辺自治体との連携に理解を示しながら、「『何となく』ではなく、入り口部分をしっかり整理し、具体的な話ができる環境を整えないと実際の行動につながらない。まずは国の正式な決定が必要だろう」と強調する。

 候補地の地元である奥州市は年内を目標に、ILC実現を想定したまちづくりビジョンを策定する。「『ILCが実現できなかったら、無駄なビジョンになる』という話を聞くが、そうではない。より良い地域をつくることがベース。そこにILCを載せるようなイメージだ」。小沢昌記市長は説明する。
 都市計画に詳しく、ILC立地評価会議・社会環境基盤専門委員を務めた中央大学理工学部の石川幹子教授も同じような見解を示す。「ILCが来る来ないに関係なく、地域の将来を考える取り組みは必ずやらなければいけない」
 小沢市長は「宇宙誕生の謎を解くという研究テーマの壮大さもあり、具体的にわが事として捉えきれない側面もあるが、きっかけさえあれば周辺自治体の取り組みは大きく前進する」とみる。その上で「自治体間の温度差を無くし、広域的な連携を進めるとすれば、やはり県がヘッドクオーター(司令本部)になるべきだ」と主張している。

写真=昨年完成したばかりの住田町役場庁舎は、林業のまちにふさわしく地元木材をふんだんに使用した。ILCを見据えたまちづくりに、地域が持つ「強み」や「特色」を反映させるためにも、周辺自治体が具体的な取り組みに着手できるような環境醸成が求められている
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