人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】国際研究都市構想と地域社会(1) 県境を越えた連携〜一関市周辺

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tanko 2015-7-23 9:50
 いわてILC加速器科学推進会議(亀卦川富夫代表幹事)は今月25日、水沢区佐倉河の奥州市文化会館(Zホール)を会場に、シンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」を開く。ILC(国際リニアコライダー)の国内誘致実現に期待を寄せる有識者らは、候補地周辺地域が一体となり、将来像を考えるよう提言している。素粒子物理研究施設ILCの誘致と広域的なまちづくりとの関係について、あらためて考える。(児玉直人)

 奥州市国際交流協会が実施した高校生ILCアンケートや、市内中学校ILC出前講座の感想文には、「国際化によって日本文化が崩壊するかもしれない」「豊かな自然が破壊されないのか」などの声が記されている。学術的意義や経済効果といったメリットが強調されがちなILC計画にあって、子どもたちは素朴な疑問や不安も抱く。
 「地域の信頼とサポートを得ることは、大規模な科学施設実現の成功へと導く鍵となる。不安を取り除き信頼を構築するため、研究者は地域に出向くことになるだろう」。国際研究者組織リニアコライダー・コラボレーション(LCC)の広報担当者、バーバラ・ワームベインさん(ドイツ電子シンクロトロン研究所所属)は、高校生らの指摘に対する見解をLCCホームページを通じて世界中に発信した。
 今回のシンポジウムを主催する同推進会議の亀卦川代表も、「研究者側には『ILCは地域に溶けこむように』との思いがある」と語る。「環境保全や地域文化の継承はもとより、人口減少、地域経済の衰退といった課題は、もはや自治体単独ではなく、広域的な視点でやらなければいけない時代。こうした既存の地域課題の解決に、ILCのスケールメリットをどう生かしていくかという話だ」と強調する。

 シンポジウムでは、ILC関連としては初めて大船渡、陸前高田、住田の気仙3市町と胆江2市町の首長が顔を合わせ意見を交わす。胆江と気仙の東西ラインは、ILC建設想定エリアの北側に位置する。
 一方、南側の一関市周辺では、ILCを見据えた広域連携の下地が整えられようとしている。そのけん引役が同市の勝部修市長。県内外で開かれる関連行事に積極的に出席し、研究者らとのパイプも太い。自ら講師を務める市民向けILC講話は、2年で130回を超えた。
 県職員時代からILCに深く携わってきたが、そのことだけでILC誘致に力を注いでいるわけではない。今月上旬、盛岡市内で取材に応じた勝部市長は「県境を抱える自治体として、一つの危機感があった」と打ち明けた。
 千厩の公共職業安定所や法務局一関支局など、ここ数年で市内の国の出先機関が廃止され、県庁所在地に近いほうへ集約された。「国の縦割りのやり方で物事が進むと、地方創生にも影響を与えかねない。もう、県境を気にしないでやるしかない」
 今年4月下旬、隣接する宮城県栗原、登米両市の市長と懇談会を開いた。3市は同じ通勤・通学・通院エリアにある。文化も重なるなど、昔から県境を越え密接な関係にある。
 懇談会ではILCにとどまらず、子育てや婚活支援、医療、観光なども話題に上った。3首長は共通課題を認識し、連携の必要性を確認し合った。
 「当地域が恵まれているのはILCがあること。まさにアドバンテージ(優位性)だ。将来の地域発展の鍵を握る存在だと、3首長ともに一致した」。勝部市長は力を込める。

 勝部市長は3年前、宮城県気仙沼市にも連携を働きかけている。候補地の南端でもある気仙沼市は、港湾機能を生かした資機材の搬入拠点としても一目置かれている。今年1月、国際研究者組織リニアコライダー・コラボレーション(LCC)は気仙沼港を視察している。
 候補地南側で進む連携体制の構築。亀卦川代表は「われわれ民間誘致団体が呼び掛ける形となった今回のシンポジウムがきっかけとなり、一関周辺で進めているような連携の輪が広がってほしい」と希望する。
 「これは地域間競争ではない。文化や交通網でのつながりが深い地域がスタートラインにはなるが、最初のつながりがだんだんと大きな輪になるのが重要。今は奥州、一関で活発なILCの動きが、沿岸や宮城県北、さらには花北・遠野地域などを巻き込むような形で広がっていけば、やがて描く東北一円のビジョンはより中身の濃いものになるだろう」と話している。

写真=JR一ノ関駅東口に掲げられているILC誘致のPR看板。一関市は県境を越えた連携を図るため、首長レベルの懇談を始めている
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