人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【2015元旦号】郷土が輝くチャンス! 身近な課題に将来のヒント

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tanko 2015-1-1 12:40
他地域からの移住者増→ILC見据えたまちづくり

 少子高齢化、人口減少は、住民に最も身近な地域コミュニティーの在り方にも大きな影響を与えている。従前の取り組みを継続するだけでは対処しきれない状況にある。
 こうした問題に対処すべく、胆江各地でさまざまな取り組みが展開されている。もともとは高齢化対策や新旧住民の交流促進のために計画したものだが、地域商業の活性化や国際リニアコライダー(ILC)誘致に関係した将来都市ビジョン策定にもつながる大きなヒントを与えてくれる。
 さまざまな課題を克服し、今まで以上に地域を輝かせようとする人たちの姿を追った。(菊池藍、佐藤和人)

新旧住民つなぐ「子ども」
 「東北復興の柱」と県が位置付けている国際リニアコライダー(ILC)の誘致。ILCが誘致された場合、国内はもとより世界各国から研究者とその家族が胆江地区などに暮らすことが予想される。さまざまな出身地の新住民が急増したとき、地元住民はどう対応し地域づくりを進めるのか――。金ケ崎町では、新たに開発された分譲地やアパートに、他地域から引っ越してきた新住民が住むようになっている。そんな中、都会でみられるような「人間関係の希薄化」に陥らないよう、新旧住民一体となった地域づくりを進めている自治会がある。これらの取り組みは、ILCを見据えた国際都市の姿を考える上で、よいヒントになるかもしれない。


宅地造成機に人口増/祭りなどで交流促進(矢来自治会)
 JR金ケ崎駅周辺をエリアとする矢来自治会(坂田裕之会長)。近年、宅地が造成され新しい住宅が建ち並ぶようになった。駅前広場を活用した夏祭りの開催などを通じ、新旧住民の交流を深めている。
 自治会内の人口は、2010(平成22)年は286人だったが、昨年は約1.26倍増え360人に。子育て中の若い世代が引っ越してきたこともあり、高齢化率は34.97%から29.44%に下がるなど、自治会内の年齢構成も大きく変化した。
 現在体育部長や班長として自治会活動に汗を流す斉藤和博さん(60)も、移住3年目の新住民。行事参加を呼び掛ける際、回覧だけでなく戸別配布や訪問を重ね、地域内の顔をつないでいった。子育て世代は、子どもと一緒に地域の清掃活動に参加してくる。「もともと参画意識が高い人たちが住んでいる。新しい住民の『ちょっと先輩』として、従来から住む人たちとのつなぎ役になれれば」と心をくだく。
 子ども会育成会の会長などを務めてきた高橋牧子さん(43)は、「今でこそ子どもが多いが、少ない時期もあり、役割を分担しながら活動する中で必然的に自治会との関わりが増えた」という。「大変だったけれども、関わり続けることが大事。つながり続けていれば、何かあった時にも心強いかな、くらいの気持ち」と振り返る。
 これまでの活動の積み重ねの上にあるのが、2012年度から新たに導入し、駅前イベント広場で開いた「やらい絆まつり」。新たな住民間のつながりを生むきっかけにもなっている。
 高橋さんの長女・涼香さん(22)は「新しい家が建ち、顔が分からない人もいたが、祭りに来た子どもたちとの交流を介して、お互いの顔が分かるようになってきた。顔見知りが増えれば、他の行事へも参加しやすくなる」という。
 「住民がそれぞれ勤務時間も異なり、全ての行事に参加というわけにはいかないが、徐々に参加が増えている」と自治会の坂田会長(62)。まつり開催を通して生まれた新たなつながりは、通常の自治会活動へも好循環を生み出し始めた。
写真=みずき飾り作りなど、日ごろから世代や組織を横断しての交流事業を実施している矢来自治会。新しく家を建てた住民と地域との融合を図っている




「都市化」防止へ行事工夫/増えるアパート転入(谷地下自治会)
 国道4号・金ケ崎バイパス沿いをエリアとする谷地下自治会(西久雄会長)も、アパートなどに転入してくる住民が増え続けている。同自治会は、新住民と従来から同町に暮らす住民との交流を図るため、子育て世代を意識した取り組みを展開。住民同士の関係が希薄になる「都市化」のような状態を防ぐ努力をしている。
 かつては田園地帯だった谷地下地区。バイパス開通とともに国道沿いが商業地域となった。金ケ崎小学校や町立図書館、中央生涯教育センター、金ケ崎駅などの公共施設もあり、工業団地へのアクセスが良いことからアパートが増えた。
 町内でも利便性が高い地域とあって、地区内の人口は年々増加し、1979(昭和54)年は439人だったが、昨年は1189人に。世帯数も107世帯から444世帯に増えた。このうちアパート暮らしの住民は235世帯と、全体の半数近くを占める。
 自治会では、子どもたちを巻き込んだ▽感謝祭▽班対抗運動会▽盆踊り大会――の3大事業を1991(平成3)年から展開するようになった。子どもが参加できる行事ならば自然と保護者もついてくる。
 行事ばかりではない。同自治会は、新生児誕生の祝い金贈呈制度がある。自治会の予算の中から地区内で子どもが生まれた世帯に1万円を贈り、子どもの育成にもつなげている。これらの取り組みを通じ、新旧住民間の関係が希薄にならないよう努めている。
 「地域活動は『人と人を結びつける』大切な事業。ややもすると自治会役員らは任期を全うするだけになりがち。活動もマンネリ化する傾向がある」と西会長(69)は語る。
 自治会では、多方面の意見を聞く場として「谷地下地域づくり協議会」を設置。現役員や歴代会長、民生児童委員らが集い、自治会事業の見直しや新規事業などを模索する。
 一連の活動成果が認められ、2009(平成21)年に「県の元気なコミュニティー100選」の認定を受けたが、今もいくつかの課題に直面している。その一つが、リーダーとなる後継者の不足。西会長は「住民は多くいるが『リーダーをやりたい』という人がどれだけいるか。仕事をしながら地域づくりに関わるのは困難との声も多い」と現状を話しながらも、「この地域には鳥海柵や戸隠神社など古くから伝わる歴史と文化がある。昔の人の思いを大事にしながら地域活性化につなげていきたい」と前向きだ。

写真=アパート世帯増加を踏まえ、アパート火災を想定した防災訓練を実施(谷地下自治会)
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