人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致夢と現実(9)【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-21 5:50
議論と覚悟は十分か 学術政策・行政の観点から見たILC(有本 建男氏)

 ILCは科学者と行政官、政治家だけで誘致を決められるプロジェクトではない。莫大な予算がかかる事業であり、日本政府は相当の覚悟で決断を下す必要がある。学術界はもちろん、一般の方々も含め各コミュニティーの中でしっかりと議論することが求められる。
 日本がこれまで携わってきた国際プロジェクトのほとんどは、冷戦の前にスタートしているか、冷戦構造の国際政治の中、アメリカがリードして行われてきたものだ。冷戦直後には、国際宇宙ステーション(ISS)のように国際社会の連携を図るために立ち上がった事業もある。そんなISSも最近のウクライナ情勢を受け、今後の動向が非常に不透明な状況だ。
 ISSも国際熱核融合実験炉(ITER)も政治の側が「やろう」と言い、そこに科学界が共鳴し現在に至っている。だが、ILCは冷戦構造とは違う世界体制の中で進めることになる。科学者サイドが相当な決意を持ってやらなければ実現しない。
 ビッグプロジェクトを進める時間軸は「揺籃期」「準備期」「運営期」と分けられる。今、ILC計画のステージは揺籃期にあり、行政も絡み始めた状態だ。
 各省庁の今までの経験から言うと、この段階の仕事が非常に難航する。ILCの場合、推進体制や組織の統治方法、人事についてはもう少し進んでから考えるだろうが、この種の話はISSでもITERでも必ずもめる。政治的駆け引きも絡む。
 ところが、科学のことが分かり資金調達策や予算のことも知っていて、国際交渉をタフにこなせるような人材は、日本にはほとんどいない。非難するわけではないが、途上国に比べ気丈夫さがない。
 理由は縦割り社会になっているからだ。科学者は自分のやりたいことをとにかく話す。一方で行政官は横を向き「持ち帰り相談します」と言う。これが繰り返されているから、日本に対する国外の信頼が下がるのだ。
 科学者だけでなく行政や政治、市民が対話を重ねていく上で、ILCだけに特化した話をしていたら何もならない。単純にILCが「いい」「悪い」だけの話になる。これは非常にまずいことだ。国内が分裂状態のままでは、安定的に経費を得ることも組織運営することもできない。若い研究者の育成にも影響を及ぼす。今動いている国際的なプロジェクト全体をじっくりと俯瞰的に把握した上で、ILCを巡る議論に臨むべきだ。
 日本の財政はものすごく厳しい。そのような状況下で人々を説得し、これだけのものを造るのは、相当の議論の積み重ねが必要だ。だが、内向きの話ばかりではなく、新しいことにもチャレンジしなくてはいけない。広い視野を持ってこの計画に臨んでほしい。
(石川幹子氏の講演につづく)

 ありもと・たてお 1948年、広島県出身。74年に京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、科学技術庁入り。内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)、文科省科学技術・学術政策局長、経済社会総合研究所総括政策研究官などを経て、12年4月から政策研究大学院大学教授。主な著書に「高度情報社会のガバナンス」(共著、NTT出版)など。
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