人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致 夢と現実(6)【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-18 5:10
国民賛同どう得るか 人文社会学の観点から(今田 高俊氏)

 私はもともと人文社会学を専門としているが、最近は文系と理系の間の仕事を日本学術会議の中でやることが多い。ILCのほか、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分について、考えを示すよう求められていた。これはとてもシビアな問題。生命のリスクにも関わるため、国民や地域住民の合意形成を得るのはなかなか難しい。技術的にもさまざまな課題を含んでいる。
 ILCの建設候補地では非常に高い期待が寄せられている。東北と九州の間で誘致合戦のような様相も起きるぐらいだった。
 ILCの建設費は10年間で約8300億円。関連施設を入れると約1兆円と言われ、このうち日本が約半分を負担すると想定されている。運営費は約360億円だ。「1桁違えば何とかなる」という声もあるようだが、われわれ社会学の人間の感覚からすると「2桁も3桁も違う」と感じるぐらい莫大な金額だ。それだけに、国民からどう賛同を得るかが大きな課題になっている。
 人材の面でも研究者が1000人規模で必要とされているが、日本で対応できるのは現在300人程度。700人はこれから育てるか、外国から来てもらうことになる。人材育成をしっかりやらないといけないのは確かだ。
 何はともあれ、まずはILC計画の意義を国民が知らなければいけないし、納得してもらう必要がある。
 意義の第一は基礎科学の発展。「日本や東北が宇宙の始まりを探求する研究拠点になる」という点だ。科学は社会に役立つだけでなく、真理の探究にも寄与する。「お金になるからやる」のではなく「お金にならなくても真理を知る、探求する」という姿勢は、科学技術を発展させる原動力にもなる。
 だが、単に基礎科学の発展だけでは国民の合意は得られにくい。何らかの役に立つ側面も考えなくてはいけない。それが第二の意義に当たる。
 現在、加速器関連技術を利用した工業製品の生産額は約70兆円。日本の工業製品全体の生産額が約300兆円だから、おおよそ4分の1は加速器関連産業で作り出している。
 ILCができると医療、生命科学、材料科学、環境エネルギー分野までの技術革新が起きると期待されている。実際に米国は、ロケット打ち上げなどの技術を応用し、いろいろな産業に生かしてきたという例がある。具体的にどのような産業や製品を生産できるか、ここ数年の間に詰めたほうがいい。
(つづく)

いまだ・たかとし 1948年、神戸市出身。1972年、東京大学文学部社会学科卒。東京工業大学助教授、同大教授などを経て今年3月まで同大大学院社会理工学研究科教授を務めた。現在は同大学名誉教授。専門は社会システム論やリスク学、情報社会論など。日本学術会議の「ILC計画に関する検討委員会」副委員長、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」委員長を歴任。2008年、紫綬褒章受章。
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