人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致 夢と現実(5)【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-8 5:20
費用と人材 国際分担いかに ILCの加速器・測定器(山下 了氏)
 ILCの国内候補地(サイト)については、10年以上かけて絞り込みを進めてきた。最初は国内各地に候補地があったが、2候補地(北上山地と九州の脊振山地)に絞り込まれ、2候補地で詳細な調査と検討をした。
 ILC戦略会議内の立地評価会議が中心となり、最終的に北上サイトが長さを取る意味で優位性があるという結論に至った。社会環境面では脊振サイトが利便性に優れてはいたが、技術的要件を重視し、北上サイトにおいて国際設計作業を進めている。
 ILCは非常に高価な装置で、加速器本体だけで約8300億円。そこに、約400億円の大きな測定器(検出器)を2台用意する。国際分担をどうするかが重要なところだ。
 運営コストは年間300億円から400億円かかる。これも非常に高価。このほか、人材に関してもたくさんの専門知識を持った人間が必要となる。
 悩ましい課題がある一方で、ILCのような最先端加速器を開発し、建設することで、新たな「加速器科学」を生み出すことができる。放射光利用や医学利用などがそれに当たる。超電導加速器を使い、新素材の開発や創薬、核廃棄物の処理などの研究・開発が進んでいる。
 ILCに使う超電導加速器の開発拠点は日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)やドイツの電子シンクロトロン研究所(DESY)、アメリカのフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)にある。
 すでに大規模な受注が始まっている。3年ぐらい前までは「ちゃんと、加速空洞ができるか?」と言われていたが、今は状況がまるっきり違う。企業や研究所の努力により、仕様を満たしている製品ができるようになっている。加速空洞は実用化の段階まできている。ILCを目指しつつ、ノウハウを応用する状況にまで来た。
 まとめると、ILC実現への主要課題は建設コストと人材、運転経費の国際分担をいかにできるかだ。国際工学設計を数年の間で進めることになるが、そこで、技術選択やコスト削減、精度向上などを詰めることになるだろう。
(今田高俊氏の講演につづく。連載は18日付から再開します)

補足説明=加速器や測定器のほか、受け入れ地域においては関連施設へのアクセス道路整備、住環境や教育施設といった都市機能の強化面まで対応する必要がある。元東北大学大学院教授の故・大村虔一氏は、付随部分の整備費を約2890億円と試算。厳しい財政事情を踏まえ、民間資本の活用を提唱していた)

写真=KEKで開発研究が進められている「クライオモジュール」。断面の下の部分に加速空洞が取り付けられ、電子や陽電子が駆け抜ける。内部はマイナス271度の液体ヘリウムで冷やされ、電気抵抗がゼロになる超電導状態をつくる
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