人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致夢と現実(4) 【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-7 5:50
技術課題に企業と挑む ILCの加速器・測定器(山下 了氏)
 ILCのサイエンスをいかにして実現させるか――。まさに生みの苦しみである。装置は非常に高価であり、運転も何十年にわたって行う。非常に壮大な計画であるILCの技術、そして課題について話したい。
 CERN(欧州原子核合同研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突加速器)のような円形の加速器にとって、最大の問題は放射光だ。粒子を加速するとカーブしたときに光が出てしまい、エネルギーを失ってしまうのだ。より高いエネルギーの領域を調べる上で限界がある。
 これに対し、ILCは直線状に掘られた地下トンネル内に主線型加速器(クライオモジュール)がずらりと並んでいる。研究の進み具合などに応じ、トンネルの両端を延長させていくことによって、エネルギーを段階的に上げていくことが可能だ。
 ILCには重要な技術が二つある。一つは、超電導(超伝導)加速装置だ。LHCは超電導磁石を使い粒子を加速させているが、ILCは一気に加速しないといけないので、瞬発力のある加速器が必要だ。二つ目は、ナノメートル単位で電子を絞り込み衝突させる制御技術だ。これらを20年、30年かけ検討してきた。

 (補足説明=LHCは円形の加速器なので、検出器内で粒子が衝突しなくても、衝突するまで粒子を周回させておけばよく、発生させた粒子を無駄なく使用できる。ILCは、一度発生させ加速させた粒子は再利用できず、検出器を通り過ぎた粒子は「ビーム・ダンプ」という装置内で処理される。できるだけ無駄なく衝突現象を起こすためにも、ほぼ光速の状態に近い状態まで一気に加速させる技術と、なるべく粒子同士を一つの集合体にして高い確率で衝突させる技術が必要になってくる)

 研究者は国際協力の下で活動し続けてきた。アメリカ、ヨーロッパ、日本に技術開発の拠点が作られた。日本の場合、研究所の中には装置を実際に作る場がない。企業と一緒になり、設計段階から開発研究を続けてきた。
 その集大成として昨年、TDR(Technical Design Report=技術設計報告書)をまとめた。一つのプロジェクトの準備段階としては、史上最大規模の計画書だ。
(つづく)

 やました・さとる 1965年、千葉県生まれ。1989年、京都大学理学部卒。1995年、同大学で理学博士号取得後、東京大学素粒子物理国際研究センター助手に就任し、欧州合同原子核研究機構(CERN)で国際共同実験に携わる。2007年から同センター准教授。研究分野は素粒子物理実験、加速器科学。ILC戦略会議議長、先端加速器科学技術推進協議会・大型プロジェクト研究部会長なども務める。
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