人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致夢と現実(3) 【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-6 5:40
最大波及効果は人材育成 ILCでのサイエンス(村山 斉氏)
 ヒッグス粒子が見つかったことで「もう素粒子物理をやる必要はない」という人もいた。しかし、われわれは新しい幕が開けたと考えている。正体がよく分からない「暗黒物質(ダークマター)」「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」の存在など、ヒッグス粒子の存在を利用し、調べたいことがたくさんあるからだ。
 つい最近、米国で将来にわたる素粒子物理学研究の方針が出された。「今後の科学を考える上で、ヒッグス粒子を『次の発見』のためのツール(道具)として使う」と、筆頭に書かれている。ヒッグス粒子が未知の物質を知る窓口になり得るという意味だ。
 そのためにも、ヒッグス粒子の性質をより正確に調べなくてはいけない。そこでILCが必要になってくる。
 CERNのLHCは陽子と陽子を円形の加速器を使って加速し、ぶつけている。簡単に言えば、豆大福を2つぶつけるようなものだ。本当は小豆の粒々がぶつかる現象を見たいのに、あんこや皮の成分も一緒にぶつかり、ぐちゃぐちゃに飛び散ってしまう。どれが小豆の衝突だったのか探り当てるのは一苦労だ。
 一方、ILCは素粒子である電子と陽電子をぶつけるので、衝突現象はシンプルで分かりやすい。小豆同士をぶつけるようなものだが、小豆は豆大福より格段に小さく、投げにくいしぶつけにくい。同様に電子と陽電子を超高速で加速し、見事に衝突させるのは難しい。だが、ここ30年ぐらいかけて検証したところ、技術的に実現可能だということが分かっている。
 ILC計画は欧米にも強いインパクトを与えており、日本での動きを興味深く見守っている。まさに、日本の出方待ちという状態だ。
 ヒッグス粒子は、まだ大きな謎に包まれている。それを解き明かし次の謎に迫る上で、ILCは最適、かつ無敵の加速器だ。何より建設前の段階で確実に成果が見える研究装置は非常にまれだ。
 日本人は潜在的に、このような科学分野にすごく興味を持つ能力がある。「何の役に立つんだ」という話は付き物だが、ILCを実現することで得られる最大の波及効果は、次世代を担う人材を創ることではないだろうか。
(山下了氏の講演につづく)

図=LHCとILCにおける衝突現象の違い。LHCで衝突させている陽子には、クォークやグルーオンという素粒子が含まれているため、衝突現象が非常に複雑。調べたい現象を見つけ出すのが大変だという(東京大・山下了氏の資料を基に作成)
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