人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致 夢と現実(2) 【日本学術会議 ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-5 9:30
私たちが存在する理由 ILCでのサイエンス(村山 斉氏)
 「私たち人間はどこから来たのか」という問題は、人類史が始まって以来、宗教や哲学、そして科学でも考えられてきた。
 「昔のこと」を探るために使用してきた道具の一つが、巨大な望遠鏡だ。星の光は遠くから時間をかけて地球に届く。つまり、星を調べれば宇宙の昔の姿が分かる。

 (補足説明=光の進む速さは秒速約30万km。太陽と地球の間は約1億5000万kmあるため、太陽光が地球まで届くのに8分余りかかる。夜空に見える星の光は遠い過去に発生した光が地球に届いたものである)

 現在は133億光年の銀河まで調べることができる。宇宙が始まってから、およそ5億年後の姿を見ていることになる。
 しかし、望遠鏡には限界がある。宇宙誕生直後は、熱くて濃いスープのような状態になっていたと言われ、光がまっすぐ進むことができなかった。
 それでも宇宙誕生の瞬間により近い部分を見たい――。素粒子物理学はその思いに挑む学問であり、望遠鏡に代わって加速器を使う。粒子同士を超高速でぶつける実験をして「宇宙の始まりに何が起きたのか」「どのように新しい元素ができてきたのか」を調べられる。
 加速器を使った実験では、星の中で組み立てられた原子が宇宙空間にばらまかれ、その後に人間などをつくる“もと”ができたことも分かった。少しずつではあるが「人間はどこから来たのか」の答えに迫っている。
 原子は中心に原子核があり、その周りを電子が回っている。電子が原子核の周りにとどまっているために必要なのが「ヒッグス粒子」だ。つい最近、CERN(欧州原子核合同研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突加速器)で、ヒッグス粒子らしきものが見つかった。
 ヒッグス粒子は、その働き自身が非常に大事。宇宙誕生直後は1000兆度という超高温状態だった。ヒッグス粒子など、素粒子がバラバラに飛び交う無秩序な状態だったと考えられている。
 ところが次第に冷えていき、ヒッグス粒子は空間にびっしりと満たされ凍り付いた。すると、それまで好き勝手に飛び交っていた電子などの素粒子がヒッグス粒子にぶつかり、動きが鈍くなる。電子は原子核の周囲にとどまり、原子が形成され、やがて「私たち」が存在するようにもなった。仮にこの瞬間、ヒッグス粒子が無くなったとすると、われわれは10億分の1秒でバラバラになってしまう。
 ヒッグス粒子の存在を提唱したのは、ピーター・ヒッグスさん(英国エディンバラ大学名誉教授)。彼は50年前「こういう粒子があるはずだ」と言った。それを加速器の実験で確かめようと考えられたのが30年前。実験に必要な加速器の建設が始まったのが15年前だった。大型加速器の研究が実現するまでには、非常に長い時間がかかる。50年前に考えられた理論がようやく証明されたわけだから、感激はひとしおだった。
(つづく)

 むらやま・ひとし 1964年、東京都出身。1991年、東京大学大学院物理学専攻博士課程修了後、東北大学に2年間助手として勤務。2000年から米カリフォルニア大学バークレー校教授、2007年から東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長。ILCを推進する国際組織「リニアコライダー・コラボレーション」の副責任者でもある。難解な素粒子物理の世界を分かりやすく解説するなど、科学の普及に尽力している。
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