人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

時論私点〜理解深めたいILC計画

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tanko 2013-1-16 18:20
 にわかに話題にのぼることが多くなってきたILC(インターナショナル・リニア・コライダー=国際的な直線加速器)の国内での建設候補地は、この夏にも決まる見通しという。国内2カ所の候補地が一本化され、海外の候補地とともに場所選びが本格化する。大型研究施設の建設計画は建設の可否を含めて、どう進むのか予想しにくい状況ながら、夢のある壮大な計画だ。
 素粒子物理学の世界的な研究施設と聞いても、理解しにくいものの、物理学の世界でノーベル賞を受賞するほどの発見が期待できる施設となると、画期的で権威を感じる。しかも、奥州市を含む本県南部が建設地候補であるとなると、夢はさらに膨らむ。
 国内候補地は、江刺区米里に連なる北上山地、福岡と佐賀の県境に連なる脊振山地。
 ILCは、最先端技術が結集した超精密なシステムによってつくられるため、地震などの影響を受けない地層が求められる。北上山地は、地殻震動を受けにくい花崗岩が広がっているほか、活断層もないと推定される。加えて、交通アクセスや周辺の社会資本も一定水準にある。
 もともと、北上山地の地殻特性などに着目して設置されたのが、国立天文台水沢VLBI観測所の江刺地球潮汐観測施設。1979年に江刺・阿原山に建設された。天体科学の観測などの素地があることなども強みとされる。
 ILC計画自体は、2003年に各国の研究者間で合意に達し、大まかな年次計画がつくられているものの、建設計画自体、正式に決まっていないのが現状。現在、スイス近郊にあるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)が世界最大の素粒子加速器で、次世代の研究施設としてILC計画があるというわけだ。
 本県では当初、五輪の招致活動とは違う性格のためか、表立った誘致運動を控えてきたが、東日本大震災後に「復興のシンボルに」と達増拓也知事が提唱し、奥州市でも誘致に本腰を入れ始めた。
 夢の研究施設は、実益にもつながる。
 東北各県と経済団体などでつくる東北ILC推進協議会が昨年夏にまとめた将来ビジョンは、一つの学術研究都市が形成される見通しを含めて目を引く内容ばかりだ。
 世界的な研究施設としての価値をはじめ、産業振興や地域の活性化に向けられる恩恵も大きい。加速器の関連技術として、機械加工、計測・制御、電気・電子などが挙げられる一方、ILC計画で生み出される技術も超電導や医療、生命科学、環境・エネルギーなど多岐にわたる。
 医療だけを見ても、がんなどの治療に新たな技術が活用される期待感も高く、新たな産業創出の意味でも価値ある研究と言える。
 ただ、どの国が、どこに研究施設をつくるかは決まっていない。自民党はマニフェストにILC計画の推進を盛り込んでいるものの、国としてどう取り組むかの意思表示はないのが現状。
 当面は、国内の候補地の一本化を見据え、国家戦略が練られるのだろうが、経済効果4兆円超、雇用創出�~万とも予想されるILC計画の当該地域にあって、一層の機運醸成に努めたいものだ。
(編集委員:小野寺和人)
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