人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

世界初 ブラックホールの3要素同時撮影(天文台水沢・秦助教ら本県縁の4人貢献)

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tanko 2023-4-27 9:10
(C)Lu et al.(2023);composition by F.Tazaki

画像=GMVAで捉えたM87銀河中心部の巨大BH。左上はBH中心部を拡大した画像で、中央の薄暗い部分がBH本体の存在を示す影、周囲の輪が降着円盤を示す。中心部から右方向へ放物線状に見えるのがジェット。色が明るい場所ほど高温で最大1億度以上に達する


 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)などに所属する本県縁の研究者4人を含む国際共同研究チームは、強力な重力を持つ天体「ブラックホール(BH)」の3要素と呼ばれる▽本体▽降着円盤▽ジェット――の同時撮影に世界で初めて成功した。26日付(英国時間)の英国科学雑誌『ネイチャー』に掲載された。論文責任著者の1人で、BHジェット研究の第一人者である同観測所の秦和弘(はだ・かずひろ)助教は「BHからどのようにして高速のジェットが噴き出ているのかなど、構造解明を進める上で非常に重要な成果」と強調。今後、同観測所の電波望遠鏡をグレードアップさせた観測も計画されている。(児玉直人)

 今回の観測対象は、2019年4月に「人類史上初のBH撮影」として話題となった、M87銀河の中心にある巨大ブラックホール。地球から約5500万光年離れた場所に位置する。
 2019年に発表された画像は、国際研究者チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によるもの。主に南北アメリカ大陸と南極、ハワイにある電波望遠鏡を連動させるVLBI(Very Long Baseline Interferometry=超長基線電波干渉計)によって、BHの影がドーナツの穴のような形で捉えられた。
 EHTの画像は、BH本体にかなり近い部分に焦点を合わせている。BH本体の影や光子リングはくっきり見えても、BHに回転しながら吸い込まれていくガスによって形成される「降着円盤」や、BHから噴き出すジェットが写っていなかった。
 一方、今回の観測はヨーロッパなどの電波望遠鏡も加えた16局でVLBIを形成する「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」によって実施。EHTより視力が半減するデメリットはあるが、高い感度を維持したまま広範囲を撮影できるメリットがある。
 観測は2018(平成30)年4月に実施。データの解析や検証、論文作成に5年の歳月を要し公表に至った。得られた画像は、BH中心部の降着円盤や右方向へジェットが噴き出している様子を確認できる。
 今回の研究には、16カ国・地域の65研究機関から100人を超える天文学者らが参加。このうち、水沢観測所の秦助教と本間所長、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(東北事業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリスト、二戸市出身で八戸工業高等専門学校の中村雅徳教授の4人は本県居住や出身者という縁のある研究者だった。
 本間所長は「当初から予測されていたものとはいえ、本体、降着円盤、ジェットの3要素を世界で初めて捉えた大きな成果。さらに詳細なジェットの動きを見ていく上で、水沢や石垣島にある電波望遠鏡(直径20mのVERA望遠鏡)をグレードアップする予定だ」と話している。
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