人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

知られざる歴史にも光(天文台情報誌、水沢の話題で構成)

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tanko 2022-12-7 18:50


写真=天文台の今昔を感じさせる特集や記事が掲載されている「国立天文台ニュース」の最新号

 国立天文台(常田佐久台長)が発行した最新の情報誌「国立天文台ニュース」第338号(2002秋号)は、「天文台のあるまち水沢」の今昔を知る読み応えある構成となっている。「ブラックホールの謎に迫る」をメイン特集とし、同天文台水沢VLBI観測所が関係するブラックホール(BH)研究の最新情報、観測所敷地内にあるスーパーコンピューター(スパコン)「アテルイII」による研究成果などを紹介。さらに、旧水沢緯度観測所時代に活躍した知られざる所員の功績にも触れており、苦労しながらも自らの進むべき道をひらいた地元出身の若者たちの思いが垣間見られる。(児玉直人)

 BH関連記事は、VLBI観測所の本間希樹所長や秦和弘助教、同観測所で研究業務に従事している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(株)の田崎文得さんらが担当。「アテルイII」については、同天文台科学研究部の町田真美准教授が執筆し、BH研究でスパコンがどのような役割を果たしているかを解説した。
 最新の研究成果とともに、水沢の過去の功績に関する記事も掲載。国立科学博物館科学技術史グループ研究員の馬場幸栄さんは「白黒写真で見る緯度観測所の所員たち」と題し、VLBI観測所の前身である旧緯度観測所で活躍した人たちを取り上げた。
 同天文台学芸員だった馬場さんは2015年9月、VLBI観測所内の一室で無整理のまま保管されていたガラス乾板写真を発見。以来、復元プリントした写真から得られた情報を一般公開し、地域住民への聞き取りなど地道な調査を実施した。その結果、今まで広く知られていなかった研究分野以外の一般所員の名前や功績に光を当てることができた。
 初代所長の木村栄博士は、組織運営でも優れた才能と先見性を発揮。地元の女性たちを積極的に採用していた。それを裏付けるように、写真には袴姿の女性が多数見られた。
 女性所員の飯坂タミ子さんは14歳の若さで観測所に就職。一度も計算ミスをしたことがなく、同僚から「計算の神様」と呼ばれた。
 飯坂さんの後輩、寺島倭子(しずこ)さんは家計を支えるために観測所に就職。3代目所長の池田徹郎氏が開設していた無料塾「池田教室」で数学を学んだ。
 当時は経済的な理由で進学できなかった人も多く、池田氏は向学心ある若者の育成に尽力した。さらに「結婚や妊娠、子育てのために女性が仕事を辞める必要はない」と、寿退社の慣例を疑問視。寺島さんは結婚後も短い期間ではあったが仕事を続けたという。
 馬場さんは「緯度観測所の存在を風化させないことも大切だし、木村博士以外の所員たちの活躍にも注目し、正当に評価されるべきだ。経済的理由や性別を背景に進学ができなかったり、希望する仕事に付けなかったりした当時の人たちと同じ境遇が、今の時代の若い人たちの中にもある。当時の人たちの姿に触れてもらうことで、自信や希望に少しでもつながれば」と話している。
 最新号の情報誌はPDFデータでも公開されており、同天文台ホームページで閲覧、入手ができる。
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