人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

誘致前提の推進は困難(東京大の横山教授、ILC講演会で指摘)

投稿者 : 
tanko 2022-6-18 6:40

写真=誘致前提のILC計画推進は困難だと指摘する横山広美教授

 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構副機構長の横山広美教授(科学技術社会論)は17日、仙台市内で講演した。北上山地が有力候補地とされる素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致活動について、これまでの大型科学プロジェクトよりも規模が大きく、国際費用分担の議論をせず誘致を前提に話を進めるのは難しいと指摘。「研究者側が対応する国際議論の状況を気を付けて見ていくことが今は大事」と主張した。児童生徒への周知活動に関しても「慎重にやるべきだ」と警鐘を鳴らした。
(児玉直人)

 横山教授は素粒子物理分野で博士号を取得。科学と社会のかかわりに関心を抱くようになり、現在は科学技術社会論が専門。科学と政治、社会との関係などをテーマに、研究活動や学生の指導をしている。文部科学省が担当する各種審議会の委員も歴任。ILC有識者会議委員も2期連続で務めている。
 同日は、東北ILC推進協議会(代表・高橋宏明東北経済連合会名誉会長)主催の講演会で登壇。「Big Science(ビッグサイエンス)と社会」と題し、大型科学プロジェクトの歴史に触れながら、ILCを取り巻く状況と課題を語った。
 講演で横山教授は、岩手、東京、大阪、福岡、佐賀の住民を対象に自身が実施したILCに関する調査の結果を紹介。認知度の高さは岩手が突出して高かった。認知度では大差が生じたものの「ILC計画の議論で何が重要か」を尋ねたところ、どの地域も「税金や国際費用分担に関すること」が最多。科学的意義、地域経済への波及効果などが続いた。
 横山教授は「ILCはビッグサイエンスの中でも規模が大きく、従来通りに事が進まないというのが率直な感想。計画が公になって10年以上経過しているが、周辺状況が変わってきている。世界全体で本当に次の加速器が造れるのか――という議論を真剣に行う時期に研究者たちは立たされている。皆さんが素粒子物理学を支援してくださることは非常にありがたいが、国際分担の議論なしに誘致前提で事を進めるのは難しい」と主張した。
 このほか「ビッグサイエンスは社会と一緒に推進し、互いに情報共有していくことが大切になるが、そのやり方には注意が必要。誘致がはっきり決まっていない段階で子どもたちにアピールすることは、慎重に考えなくてはいけない。サイエンスの普及程度ならよいが、来ることを前提に話をしてしまうと、場合によっては期待を裏切ってしまう可能性すらある」と指摘。「期待の高まりが社会を駆動させるという考え方があるが、一方で現実社会との乖離が生じる危険性もある。ハイプ(熱狂)と呼ばれる状況で、結果として議論や予算も続かなくなる」とし、期待を高めすぎず冷静に状況を注視する必要性を訴えた。
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