人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

地球から最も近い巨大ブラックホール 国際チームが撮影成功

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tanko 2022-5-13 0:00
天文台水沢、困難な画像解析で貢献


画像=国際研究チームが撮影に成功した地球から最も近い巨大ブラックホール(右下)と、銀河系中心部と太陽系の位置関係図(EHTなど提供)

 天文学分野の国際プロジェクトチーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」は日本時間の12日深夜、地球から最も近い巨大ブラックホール(BH)の撮影に成功したと発表した。3年前に別の巨大BHの撮影成功を公表して以来、人類史上2例目の成果。困難な画像解析に時間を要したが、プロジェクトに参加する国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者ら日本のメンバーが、可視化に大きく貢献した。
(児玉直人)

 EHTは日本の国立天文台など世界13の研究機関・大学が出資し運用。300人を超える研究者が参加しており、うち14人が同天文台など日本の研究機関に所属している。
 今回公表された画像は、太陽系が属する天の川銀河(銀河系)の中心部にある巨大BH。地球から見て、いて座の方向にあることから「いて座A*(エー・スター)」と呼ばれている。地球から2万7000光年(1光年=約9.5兆km)離れており、重さは太陽の400万倍に相当する。
 観測自体は2017年に行われた。南北アメリカ大陸とハワイ、ヨーロッパ、南極に点在する8基の電波望遠鏡を連動させ、一つの天体を精密観測する超長基線電波干渉計(VLBI)の技術を用いた。いて座A*のほか、おとめ座の方向にある「M87銀河」の巨大BHなど複数の天体を観測しており、3年前に公表された画像は、M87銀河の中心にある巨大BHだった。
 同時期に観測したBHの画像公表に数年の差が生じたのは、いて座A*の画像解析が非常に困難だったためだ。
 画像で明るく見えるリングは「降着円盤」と呼ばれ、BHに吸い込まれようとしているガスやちりが、高温となりさまざまな電波を発しながら周回している。その動きはBHが大きくなるほど遅く見える。
 いて座A*の約1600倍あるM87銀河のBHは、一晩中観測し続けても降着円盤の動きが静止した状態となる。一方、いて座A*は数分で形が変わるほど降着円盤の動きが激しく、そのままではブレた画像しか得られない。
 EHTの研究者らは、BHの強力な重力で降着円盤のガスなどがどのような影響を受けているのか正確に調べ、ブレの影響を観測データから除去。これらの解析には水沢VLBI観測所の研究者のほか、同観測所に所属していた研究者ら日本人の若手が大きく貢献したという。
 2020年、銀河系の中心に近い天体が非常に強い力の作用を受けている点や、BHが形成される理論を証明したとして、3人の欧米出身者がノーベル物理学賞を受賞した。銀河系の中心に巨大BHが存在していることを間接的に示した成果だったが、今回の撮影画像は間違いなく巨大BHが銀河系の中心にあることを直接的に証明した成果になる。
 EHT所属の研究者らは12日深夜、日本を含む世界7カ所で同時に記者会見を開き、人類史上2例目となるBH画像を一斉公開した。
 都内の会見会場では、水沢VLBI観測所に在籍歴がある森山小太郎さん(ゲーテ大学フランクフルト博士研究員)と小山翔子さん(新潟大学大学院自然科学研究科助教)、本間所長の指導を受けている小藤由太郎さん(東京大学大学院理学系研究科博士課程在学)らが登壇し、研究の意義などを説明。本間所長も会見に同席した。
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