人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

誘致活動「支障ない」(J−PARC放射能漏れ事故受け東北ILC推進協幹部)

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tanko 2013-6-1 5:10
 国際リニアコライダー(ILC)の国内誘致要望活動のため都内を訪れていた、東北ILC推進協議会の幹部は31日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同運営する、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設「J−PARC」内で発生した放射能漏れ事故について、誘致運動への影響は特にないとの見解を示した。
 同事故は5月23日、敷地内にある「ハドロン実験施設」で発生。KEKが担当する実験の最中に発生した。装置の誤作動により放射性物質が飛散。換気装置を作動させたために、屋外に放射性物質が排出された。これまでに、研究従事者ら34人の被ばくが確認されている。KEKとJAEAは、周辺環境や人体の健康に影響が出るレベルではないと発表している。
 事故施設で行われていた実験は、ILCで計画されているものとは異なる。しかし、事故報道の中で「加速器」「素粒子」といったILC計画にも出てくる用語が頻繁に登場している。
 要望活動終了後、取材に応じた東北ILC推進協の里見進東北大総長は「(誘致活動への影響は)ないと思う」との認識を示した。推進協として一般市民への説明の必要性については「まだそこまで考えてはいない」と述べた。
 宮城県の村井嘉浩知事は「ILCの実験は電子と陽電子の衝突であり、その際に放射線が出ることはない。今回の事故とは全く次元が違う」と説明。本県の達増拓也知事は「(事故を教訓に)安全性に対する、さらなる対策を強化してほしい」と要望した。

不安への説明 不十分
 東北ILC推進協の幹部は31日にかけ、都内でシンポジウムの開催や省庁要望などを繰り広げた。北九州地域も含め、有力候補地2カ所の誘致活動がヒートアップする中で起きたのが茨城県東海村のJ−PARC放射能漏れ事故だ。
 推進協幹部は、誘致に影響はないとの姿勢。だが、本県の誘致関係者の一人は、「加速器が『危険なもの』というイメージが浸透しかねない」と危機感を募らせる。
 KEKとJAEAの発表では、事故による健康的影響は低くいという。また、ILCで行われる実験とは内容が大きく異なる。しかしながら、専門知識がない一般住民、特にILC候補地周辺に住む人の中には、今回の事故を受け、多かれ少なかれ不安を募らせただろう。似たようなことを、福島第1原発事故後に多くの国民が経験したばかりだ。
 こうした不安要素に対しては、早い段階で積極的に丁寧な説明を始め、また、それを繰り返すことが大切だ。たとえ安全な事柄であっても――である。情報公開が求められる世の中にあって「臭いものにふた」のような姿勢は、余計に不安と不信感を招く。
 ところが、5月30日のシンポジウムでは今回の事故の話題を口にする登壇者は誰一人いなかった。31日の要望活動終了後、報道陣から推進協トップに対し質問があって初めて事故に対する見解や、誘致活動への支障の有無に言及した。
 東北の復興や地域再生、人材育成のためにILCを誘致しようと願うなら、市民が不安に思う事柄を積極的に調べ、見解を示すべきだろう。あのシンポジウムは、その絶好のチャンスであったはずだ。
 誘致活動の先頭に立つ自治体首長は、市民の暮らしや命を守る立場にある。シンポジウムの中で、前岩手県知事の増田寛也氏は「一人一人の国民の理解を得られるよう、草の根的な広がりが必要。お茶の間でILCの意義を語り合えるレベルにならないといけない」と語った。だからこそ、市民感情に寄り添った対応を取るセンスが求められるのである。
(報道部・児玉直人)
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