人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC計画、欧州の消極姿勢が鮮明に(感染症対策、財政に余力なし)

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tanko 2021-11-30 14:40
米国は準備研設置に支持も“日本次第”

 北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)の建設計画に対し、主要参加国として想定されているフランス、ドイツ、イギリスの欧州3カ国の政府が依然、参加に消極姿勢を示していることが29日、文部科学省のILCに関する有識者会議第2期第4回会議で明らかにされた。アメリカ政府は、ILC準備研究所(プレラボ)の設置を支持するとしながらも、「日本の誘致表明が前提」という条件を付けている。財政難や新型コロナウイルス対応などを背景に、ILCが最優先プロジェクトには位置付けられていない現状が鮮明となった。
(児玉直人)

 文科省は10月15日、欧米4カ国の政府機関と、ウェブ会議システムを使って意見交換を実施。各国のILC計画に対する姿勢を確認した。
 欧州3カ国からは、共通して国内の財政的余力がない状況が示された。フランスは、学術関連計画の改訂時期にあるが、ILCを記載する予定はなく、投資する考えもないという。ヨーロッパにおける超大型円形加速器計画(FCC)ですら「慎重に見ている」とした。ドイツとイギリスも、日本がILC計画への優先順位付けをしていない中、自国がILCに優先的に取り組むことは難しいという立ち位置で、消極的な見解が強くにじみ出た。
 これまでと同様、アメリカはILC計画に好意的な考えで、プレラボの設置提案も支持。ただし、日本の誘致表明を前提とした進展に期待をしている点は、欧州3カ国と同様だ。
 文科省の報告に対し、委員の神余隆博氏(関西学院大学理事、国際政治学)は「本来、この分野でリードするはずのドイツでは、物理学者だったメルケル首相が引退する。まして、コロナ禍からの経済回復などを考えると、ここ2、3年は新しいプロジェクトをやる余力はないと思わざるを得ない。もし、ILCをやるならヨーロッパに頼らず、日本が(経費の)6〜7割を負担するぐらいの覚悟を示さない限り、ついて来ない」と指摘。
 座長の観山正見氏(岐阜聖徳学園大学学長、天文学)は「日本の意思表示を期待しているようだが、コロナ禍や少子化、温暖化など日本が優先的にやるべき課題や現状を考えた時、国内の社会的な動きがない限り、日本政府は『やります』となかなか言えないだろう」と述べた。
 この日の会議では、計画を推進する研究者側から▽プレラボの位置付け▽国民や他の科学分野への理解──などに対する説明もあった。
 有識者会議では年内を目標に、プレラボ設置提案に対する見解などをまとめる予定。ただ、第4回会議を終えた時点で、委員の間ではプレラボの位置付けなどに対する疑問や、理解が深まっていない点も多い。
 他分野研究の予算に影響を与えないよう、新しい科学予算の獲得を目指すとする推進研究者側の説明に、その根拠や見通しが不明とする指摘もあった。素粒子物理学振興に対する思いの一方、コロナ対策など他の優先課題がある中、国民理解を得るのは難しいとの見方も。取りまとめは困難を極めそうだ。
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