人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

文科省、ILCに慎重姿勢崩さず(誘致への国民理解「現状では困難」)

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tanko 2021-8-23 9:50

写真=奥州市役所本庁舎に掲げられているILC誘致を訴える横断幕。北上山地周辺の自治体などは早期実現を求めているが、文科省は誘致に慎重な姿勢だ


3年ぶりにILC有識者会議、山積課題を審議
 文部科学省は7月下旬、素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議を3年ぶりに再開させた。ILC日本誘致に対し、文科省は慎重な姿勢を崩していない。誘致を推進する素粒子物理学者らは6月、ILC準備研究所(プレラボ)開設に関する提案を公表。本県自治体などと連携し、政府に前向きな姿勢を表明するよう働き掛けている。しかし文科省は、課題が山積する現状での誘致判断や投資は「国民理解を得るのは難しい」との考え。有識者会議では準備が整い次第、他分野研究者らを含む同会議委員と推進する研究者らの意見交換を行い、専門的見地から課題解決の進展状況を審議。本年度中に審議結果を取りまとめる。
(児玉直人)

 有識者会議は2014(平成26)年5月に発足。ILC計画に対する課題を指摘した「審議のまとめ」を2018年7月に公表し、一度役割を終えた。
 文科省は有識者会議のほか、日本学術会議からも寄せられた指摘を踏まえ、2019年3月にILC計画に対する公式見解を初めて発表。事務レベルの意見交換は実施するものの、日本への誘致表明をする段階にはないなどとした。
 一方、誘致を推進する研究者らは昨年、高エネルギー物理分野の組織「国際将来加速器委員会(ICFA)」などからの提言に基づき、国際推進チーム(IDT)を設置。プレラボ立ち上げに向けた準備を進め、今年6月には開設提案書を発表した。
 プレラボ提案書の発表とほぼ同時に、有識者会議や学術会議から指摘されていた課題への対応状況を自主的に文科省に報告。対応に当たった高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市=は「課題解決の活動が進んでおり、残された課題を解決するにはプレラボにおいて、国際協力の下で対応していく必要がある点を関係者に理解してもらうため」と説明している。
 プレラボ開設の前提として、日本政府が誘致に前向きな姿勢を示す必要があると主張。だが文科省は、慎重な姿勢を堅持する。
 文科省は昨年2月、独仏英3カ国の政府機関と意見交換を実施。3カ国からは「ILCに参加する資金的余力はない」「建設コストが巨額で、仮に費用分担をしても(投資は)不可能であり現実的ではない」などの考えが示された。
 さらに今年2月25日の衆議院予算委員会第四分科会(文科省所管)で萩生田光一文科相は、フランスに建設中で日本も参画している国際熱核融合実験炉(ITER)において、当初計画通りの資金を拠出していない国があると答弁。「そういう現実を知っているので、仮に(ILCを)日本に造るとなり、万が一のことがあった場合、日本が全て責任を負えるのかと言われれば、とてつもない金額が後から付いてくることになる」と懸念している。
 推進する研究者サイドは、プレラボ設置によって主要国政府間の国際費用分担協議の体制が整うとの考え。しかし文科省は、プレラボ自体も明確な国際費用分担の下で設置されるべきだとの認識だ。同分科会で萩生田文科相は「極論を言えば、(プレラボは)日本単体の財力、能力でも設置できるが、やはり国際研究施設。欧米の協力見込みを明確にし、財政的裏打ちも含め確立していく必要がある」と述べている。
 3年ぶりに再開した有識者会議の委員14人は、座長を務めていた平野真一氏(名古屋大名誉教授)、学術会議会長に就任した梶田隆章氏(東京大宇宙線研究所長)が退任し、新たな委員2人を補充した以外は、これまでと同じ顔触れ。後任の座長には、元国立天文台長で岐阜聖徳学園大学長の観山正見氏が就いている。
 ILCは振動の影響を受けにくい地下への建設が最適とし、推進する研究者らは2013年に本県南部の北上山地を候補地に選定。岩手・宮城両県の自治体、経済界なども誘致実現を目指している。文科省は、候補地は政府として決定したものではないと強調している。


「誘致判断の状況にない」(ICFA議長へ文科相が書簡返信)
 文部科学省の萩生田光一大臣が今年5月、国際将来加速器委員会(ICFA)のスチュアート・ヘンダーソン議長に対し、現時点で日本がILC誘致を判断する状況にないことを伝える書簡を送っていたことが分かった。
 3月17日付でヘンダーソン議長から萩生田大臣宛てに届いた書簡がきっかけ。ヘンダーソン議長は、2月25日の衆議院予算委員会第四分科会での大臣答弁を「ILCを日本に建設することに好意的であり、必要性を十分理解している」と解釈。書簡には「ILC計画の実現に向けた約束の可能性を議論するため、大臣が外国政府関係者を招待することを期待しています」などと記されていた。
 萩生田大臣は、5月31日付で返信の書簡を送付。「一般論として日本に国際的な研究拠点が形成されることには意義があると考えている」とした上で、「しかしながらILC計画に関しては、国際費用分担や技術的成立性、国民理解などさまざまな課題がある。文科省は、現時点で日本への建設に関する判断をする状況にはない」と強調した。
 また同分科会での答弁は「見通しがない状況での準備研究所(プレラボ)への投資は、国民の理解を得るのが難しい」「プレラボの予算を検討する前に、明確な財政的裏打ちも含めて欧米等のILC本体への協力見込みを確認する必要がある」という考えを話したものだと念押しした。
 両者の書簡を和訳したものは、7月29日に開催されたILC有識者会議第2期の第1回会合で資料の一部として配布された。会議資料は一般公開されており、文科省のホームページ内から入手できる。

会議資料の掲載ページhttps://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2021/mext_00253.html
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