人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

推進派=制限も準備作業淡々と、慎重派=停止し命の対策優先に(コロナ禍のILC誘致活動)

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tanko 2021-4-25 18:40
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致活動は、新型コロナウイルス感染症の収束見通しが立たない状況下でも、実現に向けた体制づくりなど準備作業を淡々と進めている。一方、誘致に慎重な姿勢を示している市民団体は、「各国や国内自治体はコロナ禍対応でILCどころではない」などと指摘。命や暮らしを守る対策に人員や予算を投じるべきだとし、達増拓也知事らに誘致活動の停止を求めている。
(児玉直人)


写真:来県したアナ・ポラック=ペトリッチ大使(右)にILC誘致への協力を呼び掛けた達増拓也知事

■受け入れへ環境整備着々と
 コロナ禍による渡航や移動の制限、自粛が強いられている中、推進派の研究者らは、ILC準備研究所(プレラボ)設置に向けた作業や連携体制の構築、候補地における受け入れ環境の整備などを進めている。研究者らはオンライン講演会やSNS、マスコミなどを通じ、誘致実現の取り組みが進行中であることをアピール。北上山地周辺の自治体首長や経済団体関係者らも、研究者らの姿勢を支持する。
 今月22日、スロベニア共和国のアナ・ポラック=ペトリッチ駐日全権大使が来県。同国は、加速器をはじめとするハイテク産業が盛んな国で、今年7月から欧州連合(EU)の議長国になる。
 県庁で大使を迎えた達増知事は「ILCは国際研究プログラム。実現には、素粒子物理学と加速器産業の先進地であるスロベニアとヨーロッパの協力が欠かせない」と伝えた。ペトリッチ大使は「ILCは日本にとって偉大なプロジェクト。ILCプロジェクトをEUの他の国にも紹介していきたい」と応じた。

■感染症禍、セミナー開催にも影
 機運醸成につながる講演会は、オンライン方式で開催するスタイルが定着。今月28日には県ILC推進協主催のオンライン講演会が予定されている。
 一方、安全管理やリスク説明をメインとした「ILC解説セミナー」は、昨年2月2日以降実施されていない。同セミナーは高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの主催で、放射性物質の取り扱いや自然環境への影響に対する質問、意見が多く出される。
 県ILC推進局の高橋毅副局長は「講師と参加者との直接的な質疑応答が多いセミナーなので、オンライン方式で対応しきれない側面もある。感染防止に配慮し、どういう形で開催できるか検討している。やったほうがいいという思いはある」と話す。

■慎重派「誘致活動停止を」
 一関市や奥州市などのILC慎重派住民らで組織する「ILC誘致を考える会」(千坂げんぽう※、原田徹郎共同代表、会員800人)は、21日付で達増知事に対しILC誘致活動の停止を求める要請文を提出した。
 停止を求める理由の一つに、コロナ禍の影響を掲げた。原田代表は「地元の商店経営者からは『とにかくコロナで大変。そんな時にILCなんて』という嘆き節が聞こえる。地方自治体も同じような本音を持っているはず。県民の命を守る施策に資金や人員を使うべきだ」と主張する。
 同会は要請文の提出に当たり、昨年6月に公表された新しい「欧州素粒子物理戦略」の概要文を翻訳。英語教諭経験者らと読み直してみたところ、ILCの表記は1カ所だけで、その内容も「他の大型プロジェクトとともに関心を持っているとの姿勢を示したにすぎない」(同会)との解釈に至った。
 推進派の研究者や誘致関係者は、同戦略について「強いメッセージ」「ILCが最優先の研究計画と認められた」など歓迎姿勢をみせていた。原田代表は「翻訳された方も、ILCが想像より重要視されていない文脈に驚いていた。誘致関係者はあたかも、ILC実現の可能性があるように情報を流しているのではないか」と指摘している。

※…千坂氏の名前の漢字表記は、「げん」が山へんに「諺」のつくり、「ぽう」は峰
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