科学と地域社会、子どもたちは何を学ぶ(1年振り返る「記者ノート」より)
- 投稿者 :
- tanko 2020-12-25 11:10

写真=小沢昌記市長(右)に水沢VLBI観測所予算削減の経過を説明するため市役所本庁を訪れた本間希樹所長(3月27日)
「ブラックホール撮影成功」「創立120年」に水を差す事態が、国立天文台水沢VLBI観測所に降りかかった。同観測所の本年度予算大幅削減が明らかとなった。同観測所の電波望遠鏡「VERA(ベラ)」は運用休止の危機に直面した。
「国立天文台コミュニティ間意思疎通推進委員会」は、国の財政難に適応した組織運営と、大規模プロジェクトの対応に天文台執行部が注力する余り、組織全体に目が行き届きにくくなったと指摘。結果、予算削減以外にもさまざまな問題が生じたとしている。
素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致では、地域との連携不足や不信増幅につながりかねない事案があった。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、文部科学省に申請していた「ロードマップ2020」の搭載審査からILC計画を取り下げた。計画を取り巻く状況が大きく前進したためだが、取り下げた事実を約半年にわたり候補地の地元にすら公表していなかった。ところが、地元誘致推進派は研究者側を擁護するような姿勢を見せた。公式に遺憾を述べたのは、東北経済連合会の海輪誠会長ぐらいだった。
この二つの問題に触れ、あらためて強く感じたのは子どもたちに身に付けてほしい「力」についてだ。
輝かしい実績を収めている天文台水沢でさえ財政難、意思疎通問題という課題に直面した。この先の社会ではより複雑な課題対応が待ち構えている。そのような時代を生き抜くための力をさまざまな教科、行事を通じて身に付けるのが教育の場だと思う。対応一つで社会的信頼を失う恐れはいくらでもある。
そう考えた時、教育現場でのILC普及活動の現状は、本当に適切なものであろうか。理科学習への興味関心を引き出すものではなく、特定事業への応援団育成になっていないか。理系や文系という系統に偏らない幅広い「教養」こそ求められているはずだ。
(児玉直人)